【後編】趣味のなかった僕が登山の魔法にかかったお話 – 初めて雪山に登り~雪山テント泊へ
【前編】趣味のない僕が登山の魔法にかかったお話 – 登山にはまり、単独テント泊を行う >>
前編では仕事漬けで趣味のなかった僕が、ふとしたきっかけで登山にはまり、単独でテント泊をするようになった様子を書きました。
初めてのテント泊は南アルプスの北岳に登って失敗ばかりで、極めつけは雪に見舞われるアクシデント…
「もう登山なんてこりごりだ」
とは残念ながらならず、逆にこのことがきっかけで真っ白な雪山の美しさに心を奪われ、「雪山に登りたい!」という気持ちが芽生えてしまいました(笑)
丹沢の雪の塔ノ岳に登る
段々と冬が近づくにつれ、僕の頭の中は雪山でいっぱいになっていきました。
雪山に関する本も何冊か買いましたが、読みふけっていたのは「厳選 雪山登山ルート集」。
「うわー、雪山って危なそうだなー でも、きれいだな~」
「スノーモンスターすごいな! 見てみたいな」
と雪山を歩く自分の姿を妄想しながら、写真付きのそのルート本を何度も読んでいました。
「明日は神奈川県は山沿いに雪が降るでしょう」
その時は突然やってきました。
ニュースで雪の予報が流れると、僕は会社終わりに好日山荘に向かい、雪山用の靴とアイゼンを購入。
「週末は雪の塔ノ岳に登る!」
と、先月登ったばかりの塔ノ岳に単独で登ることに決めたのでした。
先にお話しした「厳選 雪山登山ルート集」にも塔ノ岳のことが書かれており、初心者でも問題なさそうなレベルだったので、塔ノ岳には目を付けていました。
予報通り雪が降り、登山決行日の土曜日は快晴に。
家でアイゼンの装着を練習し、雪山靴とアイゼンを購入してから3日後に雪山に向かうこととなりました。
雪山と言っても、塔ノ岳は標高は1500メートル足らず。
大倉尾根から登り始めましたが、中々雪道にはありつけません。
「雪はまだかなー」
とワクワクしながらじれったく思っていると、徐々に周りに雪が現れ始め、花立山荘辺りで道に雪が付き始めました。
そして、その山荘前でみんなと同じようにアイゼンを装着。
雪の山は人が少ないものだと思っていましたが、そのあまりの人の多さにびっくりしたことを覚えています。
初めてのアイゼン。
ザクザクと雪に突き刺さるアイゼンの心地よい音。
それは僕にとって本格的な雪山登山への合図となり、山男になったと思った瞬間でもありました。
「俺、かっこいー 雪山登ってるぜー」
と、僕の性格上、自惚れていたことでしょう(笑)
周りの雪はどんどんと深くなり、初めて山で樹氷を見ました。
そして、頂上は美しいの一言でした。
純白の山、澄み渡った冬の空気、どこまでも見渡せる相模湾、頭上に輝く太陽。
そして、雪をかぶった富士山。
すべてがうっとりとするほど美しく、新たな山の魅力に心が震えました。
広い山頂に到着してふと目をやると、端っこの方にポツンと座っている二人の小さな子ども。
「こんな雪山にも小っちゃい子が登るんだなー」
「ん? それにしても小さいな」
と近づいたら、そこにいたのは子どもではなく、2匹の犬でした(笑)
「犬も雪山に登るのか…」
アイゼンも付けず、素足でここまで登ってきた犬に驚いたのでした。
これが僕の初めての雪山。
そして、この塔ノ岳の登山からわずか1週間後には、弟と一緒に浅間山近くの黒斑山(くろふさん)に登りました。
そこはとても雪が深くて少し登山道から外れると、ずぼっと太もも近くまで足が埋まるような山。
雪が積もった木々が美しかったこと。
そして、今まで生きてきて感じたことのない寒さ。
気温は零下15度ぐらい。
街の中で感じる寒さとは違い、肌を突き刺す痛みを感じる寒さ。
手袋を外すとすぐに手の感覚がなくなり、気温が低すぎて携帯の電源が入らないという冬山の恐ろしさを体感したのでした。
まだ、冬山の礼儀を知らなかった僕と弟は、この極寒の頂上でバーナーでお湯を沸かし、段々と指先の感覚がなくなっていくのを感じながら、カップヌードルを体を震わせて食べていました(笑)
今となってはいい思い出です。
初めての雪山テント泊
冬が終わり、相変わらず僕は山に登り続け、夏には初めて北アルプスに登ってテント泊をしました。
登ったのは北アルプス入門として名高い燕岳(つばくろだけ)。
生まれて初めて雲海から昇る日の出を目の当たりにして、僕の登山熱は下がるどころが上がりっぱなしでした。
そして、雪山に登って一年が過ぎた4月。
「ゴールデンウィークに燕岳でテント泊をしない?」
と僕は弟に声をかけました。
「OK!いいよー」と弟は快諾。
僕の弟は当時、長野に住んでいました。
弟の登山歴はかなり変わっていて、初めての本格的な登山が雪山。
それも、八ヶ岳の天狗岳に吹雪の中で登り(もちろんベテランの方と)、体からアドレナリンが湧き出たことで登山にはまったという、普通の人とは逆コースを行っていました。
雪のない山よりも雪山に登ったことが多く、雪の燕岳も日帰りで登った経験もありました。
雪山の経験が浅い僕にとっては弟は絶好のパートナーでした。
ただし、弟にとってはこれが初めてのテント泊。
一風変わった弟の登山歴に、また新しく奇妙な登山歴が付け加わったのでした(笑)
登山当日は曇りの天気。
厨房温泉から登り始め、合戦小屋に着くころには雪が深くなっていました。
そして、合戦小屋から尾根までは雪道の急登。
ただでさえ重いテント泊の荷物に、冬季用シュラフにスコップとさらなる重い荷物で、のろのろと登っていった記憶があります。
弟はというと、かなりの健脚ですたすたと登っていき、
「さすが、雪山慣れしているだけあるなー」と感心していましたっけ。
尾根に出ると曇ってはいるものの、美しい雪の白い模様の入った常念岳に大天井岳。
そして、遠くにうっすらと槍ヶ岳!
弟と一緒に興奮して、バシャバシャと写真と撮っていました。
そして燕山荘に到着し、雪が積もったテント場へ。
「スコップいらないじゃん(泣)」
重いスコップは必要なく、前の人がならした雪面にテントを張りました。
その後は、「お疲れー」と燕山荘の前のベンチでお昼を食べながら、ビールで乾杯。
持ってきた鯖缶が美味しかったなー
ごはんを食べ終えたら、その後に一緒に燕岳の山頂へ!
頂上はガスって真っ白だったけど、弟とここまで登ってきたことを祝いました。
夜は僕はエアマットを新たに購入したこともあり、寒さとは無縁でぐっすり眠れたのですが、弟はマットが薄くて背中が寒くてあまり眠れなかったようでした。
起きたら燕岳にもう一度登り、登り口と同じ厨房温泉へ下山。
この下山が、燕岳山行のハイライトでした。
そこは、合戦小屋への誰もいない急な下り坂。
「尻セードいけるんじゃない?」
と僕が切り出し、初の尻セードを決行。
尻セードとは、雪道を滑り台のごとくピューと座って滑っていくことです。
スピードの出ることと言ったら(笑)
めちゃめちゃ楽しい上に、辛かった登り道を一瞬で下りました。
弟と僕が一番盛り上がったのが、この尻セードでした(笑)
合戦小屋にもうすぐというところで水を飲もうとしたところ、僕のテルモスの水筒がなくなっていることが発覚。
「絶対あれだな、尻セードで失くしたな」
と、夢中になって楽しんだ尻セードを少し後悔。
ところが、合戦小屋で休んでいると、「誰か水筒落とした人いませんかー」との声が。
振り返ると、それは僕が落とした水筒でした。
その方にお礼を述べて、運よく水筒が戻ってきたことを喜びました。
「尻セードする時は、ザックカバー付けた方がいいな」
と、弟と話したことを覚えています。
これが、僕の初めての雪山テント泊。
その後、厳冬期の八ヶ岳を中心に、単独でも雪山テント泊をするようになっていくことになります。
続く…
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