「登山靴は足首を固定するべきか否か」はどちらでもいいというお話
登山界では下記の議論で熱くなることがあります。
「登山靴は足首を固定するべきか否か」
「足首を固定すると捻挫しにくい」だとか、「いや、固定しない方がいい」とか、皆さん思うがままに自分の意見を言い合っており、時には登山の掲示板などで喧嘩にまで発展する始末です。
今回はこの問題を考えるに当たり、まずは、なぜこの議論が白熱するのかを取り上げます。
次に足首を固定した場合のメリット、デメリットを考え、最後に自論を展開したいと思います。
なぜ、この議論は白熱するのか?
そもそも、足首を固定するというのは、そのことで登山では致命傷とも言える「足首の捻挫を防ぐことができる」のではないかという考えが根底にあるからだと思われます。
そして、果たしてそれが理にかなっているかどうかということで議論が白熱します。
皆さんがそうではありませんが、僕の勝手な思い込みとちょっとばかりの体験から推測するに、足首固定派と非固定派の意見は下記のようなものです。
「足首固定派」は「足首固定論」が伝統的に語られてきたこと、また、登山本などでも「ハイカットの登山シューズは足首を固定できて怪我の防止につながる」などと書かれていることでその論を正そうとします。
一方、「足首非固定派」は、「足首を固定した場合に捻挫が減る」という実証データがないと言います。
また、「足首を固定しない方が歩きやすく、怪我をしにくい」と言う人も多くいたりしますが、「怪我をしにくい」ことと「捻挫をしにくい」ことは似てるようで別の問題です。
このように論旨がずれて、「それは違う」、「あれは違う」と議論が白熱することもあります。
このように、「登山靴は足首を固定するべきか否か」
という問題は、伝統的に語られてきたことが証明できないこと、また、議論の論点がずれていたりすることで時には喧嘩みたく盛り上がるのであります。
論点を揃えて考えてみる
この問題を考えてみる前に、論点を揃える必要がありそうです。
捻挫について深堀してみると、それは、
「捻挫をすることがダメなのは、それが登山ではとても危険だから(遭難の可能性が高まる)」
ということです。
ですので論点としては、
「足首を固定した場合と固定しない場合では、どちらがより安全に登山ができるのか」
ということになります。
足首を固定すると捻挫をしにくいか
論点が決まったところで、考えを深くしたいと思います。
最初に、「足首を固定すると捻挫はしにくいのか(より安全に登山ができるのか)」
ということについて考えてみたいと思います。
さて、足首を捻挫するということは、「足首の靭帯が損傷すること」を意味します。
どのような場合に損傷するかというと、足首が稼働範囲を超えて曲がった場合などが考えられます。
例えば、登山時に誤って石ころを踏んで足首が不意に曲がってしまったり、下山時や重い荷物を背負っている時などで足首がその力を支えきれず、フニャンと曲がってしまった場合が考えられます。
さて、ここからが肝心なところとなりますが、
登山靴で足首を固定するということは、ハイカットシューズの登山靴を履き、靴紐を上まで堅く結んで物理的に足首が曲がらないようにするということです。
そう考えると、どうも足首を固定すると捻挫が起きる確率は減るような気がします。
なぜなら、足首が捻挫するのは足首が曲がる際に起きることであり、それを物理的に抑えるのであれば、足首が曲がる可能性が低くなり捻挫しにくくなるからです。
これはとても単純で論理が明快です。
曲がるものを曲がらないように締め付けているわけです。
ただし、このことが「足首固定派」バンザイを意味しているわけではありません。
先ほども述べたように論点は捻挫云々ではなく、「どちらがより安全に登山ができるか」であります。
捻挫の可能性は減ったが、登山時の危険が増えたのでは本末転倒です。
それでは次に、「足首を固定しない」ということについて考えてみたいと思います。
足首の機能とは?
「足首を固定しない」ということは、足首の機能を使うことであります。
それでは、足首の機能とはどのようなものなのでしょうか?
足首は足(フット)と脚(レッグ)をつないでいて、また、足は足首のおかげで上下左右と柔軟に動くことができます。
このことで、例えば坂道などの傾いた道を歩いていても、足首が足の角度を変えることで体のバランスをとり、安定した歩行・運動を実現しているのです。
逆に足首を固定して足首の機能を使わないと、歩行・運動時に体のバランスがとりづらいことを意味します。
転んだり、つまづく可能性が高まるわけです。
試しに、足首を動かさずに横に動いてみてください。動きがぎこちなく、転びそうな感じがしますよね。
登山靴で足首を固定するべきか否か
足首の固定について考えてきましたが、
ここまでの話をまとめると下記のことが言えそうです。
「足首を固定すると、捻挫をする確率が減りそう」
「足首を固定しないと、バランス良く安定して歩ける」
ここで議論の論点を振り返ってみると、
「どちらがより安全に登山ができるか」です。
では、どちらがいいかということですが、
僕は「どちらでもいい」と思います。
あなたが、いいと思う方を選べばいいと思います。
足首を固定することによるメリットもありそうですし、また、足首を固定しないメリットは明らかです。
こうなると、どちらをとってもメリットとデメリットがありそうですから、あなたの好みの方を選べばいいと思ったわけです。
ただ、結論をこんな風に書くと、
「こんなに長い文章を読ませておいて、この結論はなんだ」
「お前の考えは何なんだ」
と思われる方もいらっしゃると思います。
ということで、僕の意見を少し書かせていただくと、
「穂高や槍の岩場のようなルートでは、足首は固定しない方がいい」
ということを思っております。
なぜなら、そのような場所では、ちょっとバランスを崩すとあの世へ真っ逆さまということになりかねません。
少しでもバランス良く安定した体勢で登山をした方が、死のリスクを減らし、安全に登山をすることができると考えています。
普段はと言うと、やはり足首は固定しません。その方が歩きやすいですから。
最後に。
今さらですが、この議論が白熱する大きな原因をもう一つあげると、
これは捻挫に関する話になりますが、
「足首を固定した人」も「固定しなかった人」も捻挫をしたことがある人がいるし、
その逆で捻挫をしていない人もいるということです。
捻挫なんてものは滅多に起こるものではありませんが、
「固定していたのに捻挫した」とか、
「固定するようにしたら捻挫しなくなった」とか、
「固定していないけど捻挫したことがない」とか、
個人個人がそのようなので、議論が白熱してしまうのではないでしょうか。