読み終わりました!
350ページを超える本で、読み応えがあります。
この本は、本のタイトル通りトムラウシ山の遭難を中心に書いているのですが、それだけではなく、トムラウシ遭難を絡めて低体温症について、運動生理学にについてかなり詳しく書かれています。
ですので、低体温症・気象遭難の予防・対策本としても優秀です。
ちなみにトムラウシ山の大量遭難事故は、2009年の7月中旬に北海道のトムラウシ山でのツアー登山中に起きた気象遭難事故で、18人(ガイド3人、参加者15人)中8名が亡くなりました。
とりわけ、夏という季節だったにも関わらず、低体温症で犠牲者全員が命を落としたためインパクトが大きく、連日メディアでも取り上げられていました。
さて、本の内容ですが章が6つに分かれています。この本は共著でして、章によって書く人が変わったりします。
1、2章は遭難本で有名な羽根田治さんが書かれています。
1章はツアー参加者の中の生存者6名にインタビューを行い、当時の状況を文字として書いて物です。
かなり事細かに書かれており、当時の気象状況や登山者の心境などを見てとれます。
2章は生き残ったガイドの内一人のインタビューが掲載されています。
この事故については、
「ガイドの状況判断が適切でなかったことが、大量遭難につながったのではないか」
と言われており、当時の3人いたガイドの一人の声ですが、
「なぜあのような状況判断に至ったのか」について知ることができます。
一人の登山者として勉強になったのは、3章と4章です。
3章は低体温症(昔で言う疲労凍死)について深く知ることができます。
低体温症については全く無知でしたが、そのメカニズムが丁寧に解説されています。
この章はお医者さんが書かれていて、低体温症の定義に加えて、
体温を奪う現象や体温が下がる仕組み、臓器への影響など科学的に説明がされています。
低体温症を体温変化を基づいて、初期症状から重度の症状まで段階的に説明していて分かりやすかったです。
低体温症の怖いところは、ある程度進行が進むと「正しい状況判断ができなくなる」ということ。
頭が働かなくなるんですね。
ですので、
「やばい、低体温症かもしれない。ダウンを着よう。」とか、
「風を避けて、温かい飲み物を飲んで休憩しよう」とか、
症状が進んでしまうと、こういう低体温症を防ごうという判断ができなくなるんですね。
低体温症になりやすい状況・環境を知った上で、低体温症になる前に予防・対策することが必要になるのです。
続く4章では、大学教授の方が運動生理学の点から低体温症へのお話をされています。
この章も大変勉強になりました。
特にエネルギー消費量と摂取量の部分は、自分の登山中の食事・行動食の考え方が甘かったなあ、と反省しました。
低体温症と聞くと、「寒い・風が強い」とかそういうものだけが原因と思っていましたが、それは原因の一部であって、
エネルギー不足がその原因となりうることをこの本で知りました。
寒くなると、体が震えますよね。
あれは体を温めようとしているらしいのですが、エネルギーが不足すると体が震えなくなることがあるそうです。
特に長時間の登山はともなるとエネルギーをかなり消費します。
食事・行動食の取り方がとても重要になってくるわけです。
トムラウシ遭難自体は夏の遭難ですが、
最も低体温症になりやすい冬の登山においても、この本はとても役に立ちそうです。
トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)